書籍名:『失敗の本質』
日時:2021年5月9日~序章 日本軍の失敗から何を学ぶか
- 合理性と効率性に相反する行動を示した日本軍
- 本来の合理的組織となじまない特性があり、それが組織的欠陥となって失敗を導いた
- 日本軍は平時では有効に機能していたが、不確実性が高く、不安定かつ流動的な状況下で有効に機能せず、組織的欠陥を露呈した
- 日本軍の組織原理を無批判で導入した現代日本の組織一般は、危機に遭遇した時に日本軍同様、組織的欠陥を表面化する可能性がある
- 本書の目的は日本軍の組織的欠陥や特性を析出し、組織としての日本軍の失敗に籠められたメッセージを現代的に解読すること
- 戦史研究の成果をもって、組織論や意思決定論(政策決定論)の理論的アプローチを適用することによって、失敗の本質を析出しようと試みる
- ドラッカー(ウィーン生まれ) 全体主義を反対しナチスから逃れるように1937年に渡米。
- テイラー(20世紀初)の科学的管理法は当時、労働組合から責め立てられる。
- 戦争については、単発な決戦から中期的な戦闘へ変化。生産力が戦争力の格差となる。
- 1904年 日露戦争で日本は圧勝。一度の戦闘で終わる時代。
- 意識の改革 米露は戦闘は連続するものとしてGDPの向上へ
- 日本は日露戦争の経験から学ばなかった
一章 失敗の事例研究
- ノモンハン事件――失敗の序曲
- 関東軍は現地を指揮するにあたり楽観的であり、自軍の優位性と敵軍は鈍重であると考えていた。また発言力も強かった。
- 大本営(中央部)は情勢を鑑みて事態を紛糾させたくなかった。
- 大本営は関東軍に配慮し、指示・命令が曖昧であり、受容や解釈に独善性がみられた。
- 関東軍は自軍への過信、過度の精神主義により、敵情視察を怠り侮った。また大本営との感情的に対立しコミュニケーションが有効に機能しなかった。
- 【ちょいメモ】
- 奇襲作戦から物量へ戦争スタイルが変わっているなかで従来の方法でしか戦えない日本軍は海外の国を見て何を学んでいたのだろうか。
- 大本営と関東軍は経営陣と現場の対立に見える
- 双方の視線が異なる為、解釈が異なる。それは仕方がないことで、双方をブリッジさせることが大切。
- 立場がことなると同じモノを見ても見え方が異なる。
- 無知の知が大切。意味・解釈を理解する。人によって理解の仕方は異なることを考慮する。それは多様性を許容すること。
- 日本人的「美意識」が異常な行動をとる
- 不言実行
- 皇軍の伝統
- 一個師団ぐらい
- ⇒現在のサービス残業に似ていないか。
- 過去の日本兵の功績により、神格化。これにより無知に陥っている可能性がある。
- 感情の対立により、中央部と関東軍のコミュニケーションが成立しなくなる。
- 多様性とは人々の意見をストレスなく表面化させること
- 心理的安全性→Google パフォーマンスの高いチームへ
- 軍隊は政治目的の為の手段であり、戦闘が目的ではないが履き違えている。
- 大本営は事態を大きくさせない為に権限を取り上げたが、フィードバックがなかった。その為、議論もなく、戦闘中でありながら関東軍は戦車隊を引き上げるような行動もとったのではないか。
- 【個人まとめ】
- 兵器・兵力に圧倒的な差がある敵を侮り、調査せずに精神論だけで物事を前に進める。その姿は支配型リーダーシップを連想させる。施策は一人で決定し、人の意見を聞かず、一方的な指示命令を行うそれである。
- 問題なのは、その結果生き延びた人々を非難し、貴重なフィードバックを受ける道を閉ざしたことである。臭い物に蓋をするという諺があるように旧来の日本人が持つ性質なのであろう。
- ミッドウェー作戦――海戦のターニング・ポイント
- 日本の暗号電報は解読されており攻撃実施の概略を米国は把握
- 米国軍の索敵の方が早く、基地の全機に対して発進を命じた
- ミッドウェー基地への日本軍の奇襲は失敗。航空機へのダメージなし
- 米軍空母発見後、攻撃に移るべきところを躊躇し、「ミッドウェー攻撃隊を受け入れたのちに米軍空母を攻撃する」判断を行った
- 米軍空母は日本艦隊への攻撃準備中に日本軍索敵機を発見した為、当初の協同攻撃を断念、逐次進撃へ切り替えた
- 山口司令官は指揮官の命令を待たず独断で米空母攻撃を決断
- 米空母「ヨークタウン」は被弾により炎上するも2時間で自力航行を開始
- その為、ヨークタウンは別の空母と誤認され、再度攻撃を受ける
- ヨークタウンは航行不能となるが、索敵機が日本空母を捉え、作戦指揮をスプルーアンス司令官に委ね、その後に飛竜を撃破。
- 日米差異3点
- 連合艦艇司令部のレベル
- 部下が作戦の企図を理解できていなかったことによる作戦目的の2重化
- 基地攻撃が目的で無く、米空母を誘い出し撃滅することが目的でありミッドウェー基地攻撃が優先では無かったが、意図が伝わっておらず作戦にそぐわない艦隊編成であった
- 上司が積極的に普段からコミュニケーションをとれてない為、意思疎通に齟齬が生まれる
- 実施の遂行を行った第一機動隊のレベル
- 米空母は存在しないという先入観
- 予備兵力を控置せずミッドウェー攻撃を行った
- 先制奇襲が大原則だが米空母発見後、すぐに攻撃に移らなかった
- 以上の錯誤・過失はミッドウェー作戦の目的と構想の理解・認識が十分でなかった。
- 日本海軍の戦略・用兵思想のレベル
- 近代戦における情報の重要性の認識不足
- 暗号解読、偵察機の開発遅れ、レーダーの技術遅れ
- 攻撃力重視する日本軍は情報収集、索敵、偵察、後力支援などを配慮する余裕がなかった
- 攻撃力重視の為、防禦力が脆弱であった
- ダメージ・コントロールの不備、被弾に対し十分な対策がなかった
- 【個人まとめ】
- 目的はなんなのかを共有しあわないとイケない。空母を攻撃するためのミッドウェー攻撃だったのに、ミッドウェー攻撃が目的となった。だから二次攻撃を優先してしまった。人は人の話に夢中になれない。アテンションは自分の内側にいく。
- 目的と手段が入れ替わっている部下が作戦の企図を理解できていない、上司が積極的に普段からコミュニケーションをとれてないについては、まさしく現代に通じる。経営方針や目標を浸透できていない組織は考えや行動が嚙み合わない。
- 不測の事態に適切な反応ができない点については、『選択と集中』に通じるところがある。リーダーは何を捨てるのかを常に判断しないといけない。結局、どっちつかずは何も得られない。
- 戦況・状況への先入観、用兵思想のレベルが上がらなかった点は、通例や過去の成功体験が悪い方に働いた典型的な事例だったと思う。成功体験で得るものはあるが、進歩発展が凄まじい世の中で固執すると未来の進歩発展を妨げる要因になる。
- ガダルカナル作戦――陸戦のターニング・ポイント
- 邀撃作戦が基本であった日本軍がハワイ・オーストラリアへ積極的進攻を目指す
- 一方、陸軍は持久戦略を基本とし、補給線がないこと理由に反対するが、米豪遮断作戦には合意(ここも1つの忖度か、もしくは消極的に見せないための体裁か)
- ツラギ島へ上陸した米軍を攻撃する一木支隊だが、米軍は弱い、兵力も少ないなどの希望的観測で出撃し待ち伏せで全滅。
- 日本軍は増援により4個大隊を結成するが撤退
- 陸軍の見解
- 火力の差
- 情報連携のミス(突撃していない大隊も)
- 米軍の水陸両用作戦
- 密林での戦いに慣れていなかった
- 連合艦隊の見解は
- 過信と軽装備、奇襲に頼った戦略
- 輸送困難であったが、敵は相当に増強していた
- 協同不能に陥ったこと
- 奇襲は敵に早期発見され逆に集中砲火を受けた
- 第二回総攻撃の準備
- 意見した二見を更迭
- 十分な物資の輸送失敗し、結局、前回と同じ戦法へ
- 空中写真にて敵の戦力を事前にしった川口は作戦変更を進言した為、罷免(司令所は罷免を知らず、現場指揮官の勝手な権力)
- 第二回総攻撃後の撤退も誰も言い出さない、フィードバックもなかった。
- 【個人まとめ】
- 兵站無視・情報力軽視・科学的思考方法を軽視しながら、硬直的・官僚的にモノ事が曖昧に決まっていく。
- その曖昧な部分を現場で埋めるべく奮闘するが、そのフィードバックは届かない。
- 組織間の情報連携も拙く、撤退後も責任の擦り付け合い、部下からの進言も感情的に切り捨てる姿は部下からどう映ったのだろうか。いずれもリーダー像としてありえない。
- 米軍は陸海空の組織的統合を図ったが、日本軍はサイロ化されてパフォーマンスを発揮できない点は現代にも通じる。
- 失敗原因
- 情報の貧困
- 戦力の逐次投入
- 水陸用作戦に有効な対処がなかった
- インパール作戦――賭の失敗
- 当初、大本営はインド進攻作戦(21号)を検討するが、現地に常駐する軍(牟田口)の見解により保留(気候/険しい山岳地域/補給困難/悪疫瘴癘 等々)。
- 戦局が悪化により軍体制を刷新、牟田口が昇格したことで『攻勢防御による防衛論』へ考えを180度転換。
- 新任幕僚は戦況を研究する間もなかった為、牟田口一人のイニシアチブへ。
- 牟田口の信念の強さ。
- 反対する部下を烈火の如く怒った。
- 別上司へ相談した部下を解任
- 盧溝橋事件の責任挽回という大義名分
- 参謀副長へ直談判時には作戦によって死なせて欲しいと自己陶酔(滅びの美学?)的な発言
- 一方、上司にあたる河辺も部下の意見を押さえ、有益な情報が得られたであろう兵棋演習についても15軍(牟田口)は、フィードバックを無視。そのクレームについても河辺が押さえつけるだけでなくフォローもされなかった。
- 南方軍・方面軍については作戦が修正されるだろうと曖昧な認識で終える。
- 戦局悪化に伴い大本営から「ウ号作戦」の準備を指示。否定的な見方が強かった為、南方軍は作戦目的をビルマ防衛強化、目標をインパールに限定、作戦の柔軟性と堅実性を図るよう指示したが、曖昧な指示であったが、方面軍から15軍へ通知した要綱はことさら曖昧であった。
- 15軍の兵団長会に列席した中方面軍参謀長も作戦内容が修正されていないことを知ったにも拘わらず黙認。その後、作戦計画の採用を稲田に推薦する。
- 軍事的合理性よりも人間関係と組織内の融和を重んじる態度。
- 作戦中止による軍内部に生じる混乱、攻勢意欲をそぐことを懸念。
- 南方軍のできる範囲で作戦を決行させてもよいではないか、という人情論で大本営も許可。
- 首相への報告の際も、問題があると知りながら大本営も実施を後押し。
- 問題点の確認・改善よりも軍事的合理性以外から導き出された決断が優先され、他は辻褄合わせとなる。
- 「ウ号作戦」は戦略的急襲が前提、しかしながら
- コンティンジェンシープラン無し【疑念を持つな】
- 長期化も考え無し【必勝の信念】
- 英印軍は事前に偵察によって作戦概要をほぼ把握し対策を打つ。この時点で急襲作戦は成立しなくなっていた。
- インパールまで3週間突進する為、重火器は最小、補給・兵站は軽視された。
- 英印軍は中国軍より弱いという思い込み、楽観的な考えで進んでいく。
- 作戦実施前より部下とのコミュニケーションを取らず、進言にも耳をかさなかった。
- 作戦は実行されるが、柔軟性が欠けた作戦は突進一点ばり、部下の反感を買い、抗命事件を引き起こす。
- また悲惨な状況を知りながら、体面・保身により作戦中止が遅れる。
- しなくてもよかった作戦⇒当時の戦局のなか、十分な検討もなくインパール作戦は実施されている。軍事戦略的にみて必要性と可能性すら疑わしい。
- 戦略的合理性を欠いた作戦⇒杜撰な作戦計画。補給を軽視し、戦略的急襲に全てを欠け、コンティンジェンシープランが欠如していた為、作戦は堅実性と柔軟性を欠いた。情報の貧困、敵戦力の過小評価、先入観の強さ、学習の貧困。非合理な心情も積極性と攻撃を同一し過度に強調することで、計画に対する疑念を抑圧する組織に浸透したカルチャー。
- なぜ実施されたのか⇒特異な使命感に萌え、部下の異論を抑えつけ、上司の意見には従わない牟田口の個人的正確、彼の行動を許容した河辺のリーダーシップ・スタイル。それ以上に作戦が承認されていくプロセスに見られた『人情』という人間関係重視、組織内融和の優先。
- 決定過程に人間関係を過度に重視する情緒主義、強烈な個人の突出を許容するシステムがある。
- 人間関係や組織内融和の重視は組織の硬直化を防ぎ、悪影響を緩和、組織の効率性を補完する役割だったが、本件では逆に組織の逆機能発生を抑制・緩和し、あるいは潤滑油であるべきはずの要素も逆機能を発現させ組織の合理性・効率性を歪める結果となった。
- 【個人まとめ】
- 話しを聞かない、現場に足を運ばない。心理的安全性がない。外の世界に関心がない。ドラッカーは組織について「外に対する貢献が組織として存在価値」と定義した。組織は存在することが意義ではない。「成長、成功するほど、関心は組織の中の事に占領され、外の世界に対する成果任務が忘れられる」牟田口は自分の組織をどのように考えていたのだろうか。
- 人間関係について、一方では潤滑油となり、一方では弊害となっている。ミッドウェー海戦では米軍司令官同士の人間関係は大きな成果をもたらしたが、日本軍は負の成果を導いた。お互いを高めようとする人間関係と義理人情といった感情で作る人間関係の差であり、後者は過度に組織運営に持ち込むと機能不全を引き起こす。
- 作戦を決定させていく過程は昨今、品質問題を隠蔽する企業と重なって見えた。品質問題が発覚した後で背負う損害を想像すれば、とても隠蔽する気にはならない。そのような想像力が足らないのか、もしくはそれを上回るほど、各上長への忖度、経営数字などの圧力が強く、そのような方向へ導いてしまう組織カルチャーなのか。いずれにせよ、一時しのぎで対応しても心理的安全性が無い組織は高いパフォーマンスを発揮できず支障をきたす。
- レイテ海戦――自己認識の失敗
- 日本が失った兵力を立て直す前にアメリカは豊かな生産力によって戦力を保持し進攻。
- 日本は十分な供給もなく、物理的・人的資源に大きな差が生まれる。
- 『捷号作戦』時間的・空間的・機能的にも複雑で多様性、さらに有機的な関連をもって整合性・一貫性を確保する必要があった。
- しかしながら、マニラでの作戦会議では「レイテ湾での決戦」が作戦の目的であるのに対し、栗田艦隊側は「艦隊決戦」と食い違いを見せる。
- 捷号作戦前に日本はダバオ誤報事件・沖縄空襲・台湾沖航空戦により、多大な損害・損失を被るが作戦はそのまま実行に移される。損害・損失を補う為、特攻攻撃によりズレを埋めようとした。
- このような状況変化への『戦略不適応』が日本軍には度々みられた。艦隊同士の意思疎通など。
- 貧弱な情報通信システムにより、協同・タイミングがはかれなかった。
- 組織化された現代戦の作戦で成功を勝ち取るに不可欠な『高度の平凡性』が不足。例としては
- 聡明な独創的イニシアチブが欠けていた
- 命令または戦則に反した行動をたびたびとっていた
- 虚構の成功の報告を再三報じた
- 異常な行動で構成された『捷号作戦』事態が高度の平凡性をはるかに超えた変形な作戦であった。
- 【個人まとめ】
- 『高度の平凡性』とは、高度なことを日頃からできるようにする、またはそれ(平凡)を超えることは失敗を招くということだろうか。有事の際に各自が間違いを少なくするには、日常的な思考・行動の延長の範囲で活動できることが必要。乾坤一擲の作戦をやるよりも、有事の際でも、常日頃の成果を出せることが重要なのであろう。
- 日本軍組織は、名人芸を求める。米軍組織は標準的な活動を求める。それは「どう無理したら勝てるか」という日本軍に対し、「どう無理なく成果を出せるか」のアメリカ軍の違い。
- また気になるのは虚偽の報告である。各組織のリーダーであるべき人間が間違いや危機について率直に報告しない。上長は誤った情報のもと判断することになり、正しい指示命令が行われるはずもない。
- 沖縄戦――終局段階での失敗
- 第三二軍は沖縄県民と一体となり、86日間に及ぶ長期持久作戦を遂行。
- 上級司令部と現地 第三二軍には根本的な作戦用兵思想の乖離。
- 上級司令部⇒航空決戦
- 第三二軍⇒戦略持久
- 第三二軍:航空部隊の基地設定軍的性格を持っていた為、地上戦力は弱体。八原大佐は航空戦力至上主義に疑念を抱く。
- 度重なる指揮隷属関係の変更に第三二軍は大本営の統帥に不信感を持つ。
- 捷二号作戦により第32軍は増強されモチベーションが上がったのも束の間、捷一号作戦発動により、精鋭の第九師団が抽出される。
- 台北会議 第三二軍より師団を抽出する旨の会議であったが決まらず。第三二軍は不満のみ残る。
- その後、第三二軍は五・六大隊の比島方面への転用、最新鋭の兵団(第九師団)の抽出を大本営より命じられ、精神的・心理的に大きな衝撃となる。
- ※沖縄本島の防衛には何の司令は無かった為、第三二軍は独自に最善を尽くす方針に進み、過去の命令を勝手に解釈。戦略持久を方針として行動しはじめる。
- 第九師団が抜けたことで、残った兵力でカバーする地域が拡大し飛行場の防衛力は低下。
- 戦場を自主的に本島南部に限定。
- 米軍が上陸した際は極力撃退し、空海基地の設定は阻止するが、配慮が及ばない空港基地に対する使用妨害は長射程砲に期待するに留める。
- 守りを固める為、陣地を縮小。南部の守りを固め、北・中飛行場の攻勢企図は破棄。
- 第八四師団派遣の内示と中止⇒さらに第三二軍は不信感を募らせる。
- 「天号作戦計画」大本営:沖縄の航空基地確保が不可欠!、第三二軍:地上戦重視の出血持久作戦の方針を変えない!(北・中飛行場を主陣地外に放置)
- 沖縄作戦初動(天一号作戦発動):陸海軍は準備ができておらず、決定的な打撃を与えること無く上陸を許す。日本側は米軍の攻撃を小規模だろうと誤判斷した(レイテ島と同じ過ち)。輸送船団を撃沈するという作戦初動の好機を逃す。
- 米軍側は先立って実施した航空撃滅戦の慣用戦法が見事成功し日本軍の有効な航空攻撃を受けることなく作戦を成功させた。
- 航空戦至上主義(最高統帥部)と地上戦重視主義(第三二軍)、「あるべき姿」と「生の姿」論との相克
- 飛行場を占領された第三二軍に奪回する指示を行う前に「作戦開始以降において甚だ干渉に過ぎる」と電報を抑える。
- 大本営、第一〇方面軍、連合艦隊、陸軍航空部隊等、飛行場奪還の要請が強まる。
- 攻勢要望の外圧により、第三二軍の方針が揺れる。
- 上層部である軍司令官の意図を推察し攻勢に転じる方針へ。
- 第三二軍 二度の攻撃中止、三度目は面目を保つ程度の攻撃実施にとどまる。
- 第三二軍は度重なる隷属関係の変更により大本営との関係が合わなくなっていた。コミュニケーションギャップ、フローされない状況が続き、相互の関係は開いていった。
- 失敗の原因
- 戦略デザインに占める沖縄作戦の戦略的地位・役割を名悪に示す努力を怠ったうえに天号作戦計画も陸海軍の認識にズレがあり第三二軍に対する指揮に微妙な影響を与えた。
- 第三二軍の上級司令部に対する真摯な態度の欠如
- 【個人まとめ】
- 戦略デザインを正確に伝えられていなかった、上司部下とで信頼関係を築き、意思疎通を深めていなかった点はミッドウェイ海戦と同様。
- 後半、面目を保つ為の戦闘が行われており、本当にあった戦争なのかと疑う部分がある。戦争の判断で感情は意思決定には不要な要素である。
- 第三二軍には同情する気持ちがあるが、戦争という極めて難しい状況・判断下にいるなかで、組織の方針に相反する行動をとっているところは冒頭にあった組織的欠陥なんだろう。上級司令部と第三二軍、指示を出す側と実行する側、それぞれの問題は二章以降で明らかになるのか。
- 上級司令部は現地・第三二軍の状況を知ろうとしなかった。戦略デザインの共有に努めなかった。
- 第三二軍は戦略デザインを知ろうとはせずに、自身の主張を肯定した。
- 天号作戦についても、陸海空で認証のズレがあった。
- 「軍の名誉にかけて」という下りがあるが、人間ならでは感情である。本来の目的よりも重視されること、それも独自に。これが日本軍という組織の欠点だろう。
二章 失敗の本質
- 戦略上の失敗要因分析
- あいまいな戦略目的
- ノモハンでは、関東軍の「満ソ国境紛争処理要項」に対し大本営は意思表示しなかった。
- 大本営が作成した「ノモハン国境事件処理要綱」は腹案として示達されなかった。
- 大本営は関東軍の地位を尊重し、微妙な表現によって中央部の意図を伝えようとした。大規模な作戦展開に対しても「察し」を基盤とした意思疎通がまかり通った。その背景には作戦目的が不明確であったという事実がある。
- 意図・命令・指示はあいまいであり、成り行き主義が多い。
- 兵力の集中は作戦の基本だが、目的が単一化されておらず、複数あり、兵力が分散される。
- ミッドウェー海戦ではミッドウェー島攻略と米艦隊撃滅を目的としており、二重の目的となっている。
- 作戦目的の二重化が投影されている。南雲長官は第二次攻撃を行う為、攻撃機を陸用爆弾に転換作業中に敵発見の報を受けた。発見が遅れたのも索敵の不徹底だった。
- 米軍は日本の作戦目的を知り、空母撃滅に集中し「空母以外には手を出すな」と厳命することで戦力を集中させた。
- レイテ海戦ではレイテ湾攻略作戦を理解せず、栗田艦隊は艦隊決戦思想で行動した。
- 日本軍の作戦計画はかなり大まか。6つの作戦では作戦目的に関する全軍一致を確立することに失敗している。
- 作戦目的の多義性、不明確性を生む要因は個々の作戦を有機的に結合し戦争全体をできるだけ有利なうちに終結させるグランド・デザインが欠如していたから。
- 失敗の過程は、主観と独善から希望的観測に依存する戦略目的が戦争の現実と合理的論理によって漸次破壊されたプロセスだった。
- 短期決戦の戦略思考
- 日本は長期的な展望を欠いたまま戦争に突入。
- 短期志向の戦略展開が強かった(近視眼的な考え方)。
- 戦略の短期志向性は個々の作戦計画にも影響する。
- ハワイ島奇襲攻撃では、タンクや工場などの施設に手を付けず第一撃の攻撃だけで引き上げ
- レイテ湾突入直前に反転し敵機動部隊との決戦をめざした
- 随所で見られた兵力の逐次投入
- 短期決戦志向は攻撃重視、決戦重視の考え方、その他方で防禦、情報、諜報に対する関心の低さ、兵力補充、補給・兵站の軽視となっている。
- リーダーはビジョンを掲げないといけない。2年後、3年後にどうなるか、どうしたいか、そのようなビジョンがない為、近視眼的になったのだろう。
- 主観的で「帰納的」な戦略策定ー空気の支配
- 日本軍は帰納的、米軍は演繹的
- 情緒や空気が支配する傾向があり、戦略的判断が行われない。
- 情報軽視、兵站軽視など科学的法とは無縁の独自の主観的の積み上げに基づく戦略策定であった為、学習がなかった。
- 米軍は演繹・帰納の反覆による愚直なまでの科学的方法を追求。
- 日本軍は組織のなかに論理的な議論ができる制度と風土がなかった。
- 『現実から出発し状況ごとに時には場当たり的に対応し、結果を積み上げていく思考法が得意であった。客観的事実の尊重とその行為の結果のフィードバックと一般化が頻繁に行われるかぎりにおいて、とりわけ不確実な状況下において極めて有効』との一文はアジャイル、リーンの思考と似ている。
- 狭くて進化のない戦略オプション
- 日本軍の戦略オプションは米軍に比べ想定的に狭く、奇襲戦法を好んだ。
- 先制と集中攻撃を具体化したのみ。
- 個人のスキルの高さと精神主義とあいまって軍事技術の軽視に。
- 戦闘の巧緻さ、それ自体がオペレーション(戦術・戦法)の戦略化となってしまった。
- 高度の統合性を要求されない場合までは戦闘技術訓練でも対抗できていた。
- 戦略>戦術>戦闘 上位を補うことはできない。
- 『海戦要務令』、短期決戦、奇襲の思想、艦隊決戦主義の思想は教条的に保持され、その後は科学的なアプローチで改訂がされないまま聖典化。
- 米軍は環境変化に対応した戦略コンセプトの転換と進化の歴史。
- 戦略オプションが狭いということは前提条件が成り立たない売位のコンティンジェンシープランを軽視した点にも表れている。
- 『必勝の信念-歩兵操典』戦闘重視・短期決戦志向を明確に打ち出している。
- 『統帥綱領』作戦方針や計画は決定した以上、貫徹するよう要求。高級指揮官の行動を細かく規制。
- 一連の綱領類が聖典化する過程で、視野の狭小化、想像力の貧困化、思考の硬直化が進行し、ひいては戦略の進化を阻害し、戦略オプションの幅と深みを著しく制約することにつながった。
- 技術進化が著しく速い近代社会で、過去の成功体験は捨てる部分と活かす部分があるのだと感じる。活かす部分は数年は普遍的なモノ(考え・思想・着想)であり、捨てる部分は時間の経過とともに価値が薄れるものだと考える。
- 日本軍の戦闘スキルや戦争に対する責任感は非常に高いものがあり活かす部分であったが、戦略に関しては陳腐化しており捨てるべきモノだったのだろう。
- 日本は島国である為、他国との戦闘が少なかった。それにより、数少ない成功体験や登場人物は神話・神格化され受け継がれてしまったのだろうか。
- アンバランスな戦闘技術体系
- 統合的技術体系の観点から、日本軍は一転豪華主義で平均的には旧式なものがおおかった。
- 『大和』世界最大の砲をもつ超大型戦艦だったが、遠距離砲爆に必要なレーダーの性能が悪かったうえに、連結した射撃指揮体系が立ち遅れ。
- 『零戦』戦闘能力は世界最高水準だったが、攻撃力を増すために防禦性能を犠牲。一方、米軍は新鋭機を徹底した大量生産で増産。2機1組で零戦に対抗した。
- 米国は徹底した標準化による生産システムを確立し、高い供給能力を保った。
- 米軍は戦争が一大消耗戦であり、勝利を収めるためには兵器を大量生産し続ける必要があることを的確に認識していた。
- 短期決戦思想から攻撃力に意識が向き、アンバランスな技術開発や先を見据えた生産計画がないまま技術開発が進んだ。
- 狭くて進化のない戦闘オプションであった為、各兵器と戦術・戦闘の連結がなく、レーダー開発の遅れ、兵站(ロジスティクス)軽視につながっている。
- 組織上の失敗要因分析
- 人的ネットワーク偏重の組織構造
- ノモハンでは戦況を拡大させたくない大本営と積極的に攻勢しようとする関東軍で意思疎通が図れなかった。大本営は微妙な表現で意図をそれとなく作戦中止を伝えるが、関東軍は都合の良い解釈で戦火を広げた。
- インパールでも作戦中止を示唆しながら、上申があると考え積極的に関与しなかった。一方、牟田口、河辺も双方で出方を伺っていた。
- 『陸軍士官学校出身』で作られた高級幕僚の人的ネットワークは強いリーダーシップにより、指揮権に協力に介入し強固で濃密な人的ネットワークを形成した。
- 海軍も個人の強い主張と下剋上的な現象が見られた。
- 組織とメンバーとの矯正を志向するために、人間と人間の間の関係(対人関係)それ自体が最も価値のあるものとされる『日本的集団主義』が立脚。
- 合理的・体系的よりも組織メンバー感の『間柄』に対する配慮が重視。
- 『間柄』を中心にするため、意思決定が遅れ重大な失敗をもたらした。
- 反対に米軍の意思決定の早さは日本軍の予想を超えた。
- 迅速で効果的な意思決定システムとして『指揮官交替システム』を実施。空母部隊指揮官を交替させ、有能な者の能力をフルに発揮させ、同じポストに置いて知的エネルギーを枯渇させてしまわないようにした。
- 米軍の『人事交替システム』は有能な少数の者に多くの仕事を与える一方で人間は疲れるから、いつまでも同じ仕事を与えてはまずいと考えで実施。優秀な部員を選抜するとともに、たえず前線の緊張感が導入され作戦策定に特定の個人を依存しなくした。
- 日本軍の『軍令承行令』は指揮権について前任、後任の順序を頑なに守り硬直化させた。
- 米軍はシステムを中心に運営されエリートの選別・評価を通じてシステムを活性化、必要に応じて変更する『ダイナミックな構造主義』
- 外国は無い、良き日本の“侘び寂びの心”や"おもてなし"は、目配り、気配り、心配りを持っているが、それを狭い組織の中の強力な人的ネットワークに組み込むと、有事の際に正しい判断ができないだけでなく、意思疎通もできなくなる。
- 閉塞的な組織は変化がなく居心地が良いのだろうが、そこに居る者は自分達が退廃していることに気づいていない。
- 合理主義な米国は組織システムにも合理性を求め、ダイナミックな構造主義を実現させた。早い意思決定と実行力を持ち合わせた。
- 属人的な組織の統合
- 戦争は統合力、陸・海・空の兵力を統合し一貫性、整合性を確保しなければならない。
- 米軍は統合力を発揮する体系があったが、日本軍の陸軍・海軍は統合力を発揮できずに折衷案。
- 日本軍の作戦行動上の統合は、一定の組織構成やシステムによって達成されるよりも、個人によって実現された。
- 先の人的ネットワークが個人による統合を可能にさせてしまった。
- 組織のサイロ化は現代の企業に通じるところがある。
- 共通の目的に向かって互いが一歩踏み出せば良いだけなのだが、根回しなどの日本的情緒性が身動きを取りにくくさせる。出る杭は打たれるというものなのか。
- 結局、自分の組織だけでやったほうが楽と考えるのではないだろうか。
- それを踏まえると強制的に人事異動・ローテーションを行うのは納得ができる。
- 学習を軽視した組織
- 日本軍には、失敗の蓄積・伝播を組織的に行うリーダーシップもシステムも欠如していた。
- 敗北を糧に近代化を進める代わりに、不足分を増員で補い、精神力の優位性を強調。
- 精神主義は2つの点で組織的な学習を妨げた。
- 敵戦力の過小評価:精神力で自軍が勝っていると評価。
- 自己戦力の過大評価
- 一斉突撃という戦法は功をなさなかったにもかかわらず、繰り返され教条的戦法は墨守された。
- 失敗した戦法、戦術、戦略を分析し、改善策を探求し、伝播することを実施しなかった。
- 物事を科学的、客観的に見るという基本姿勢が欠けていた。
- 組織学習にとって不可欠な情報の共有システムも欠如。
- 自由闊達な議論が許容さえっることがない為、情報が個人や少数の人的ネットワーク内部に留まり、組織全体で知識や経験が伝達され共有されることは少なかった。
- エリート参謀は現場から物理的にも心理的にも多く、状況をよく知る者の意見が取り入れられなかった。
- その為、教条的な戦術しか取りえなくなり、同一パターンの作戦を繰り返し敗北するプロセスが見られた。
- 逆に成功の蓄積も不徹底。勝因を抽出して、戦略・戦術の新しいコンセプトを展開し、理論化を図ることを行わなかった。
- 理論とは他から与えられるものではなく、自らが作り上げていくべきもの。
- 対人関係・人的ネットワーク関係に対する配慮が優先し、失敗の経験から積極的に学び取ろうとする姿勢の欠如。
- 教育機関でも「模範解答」が用意され、回答への近さが評価基準となっていた。
- 日本軍には、自己革新、自己超越的な行動を含んだ『ダブル・ループ学習』が機能しなかった。
- リーンスタートアップやアジャイルは"大きく考え、小さく行動し、早く失敗し、速く学習する"ことで、小さな成功と早い失敗(仮説検証)を繰り返して、顧客のニーズを満たす、サービスやプロダクト作り上げることを目的としている。仮説検証の中で学習しカイゼンする様はまさしく米軍そのものに感じた。
- プロセスや動機を無視した評価
- 自重論者は卑怯者扱いされ、過失を犯せば手厳しく追及された。
- 個人責任の不明確さは、評価を曖昧にし、評価の曖昧さは、組織学習を阻害し、論理よりも声の大きなものの突出を許容した。
- このような志向が作戦結果の客観的評価・蓄積を制約し、官僚制組織における下剋上を許容した。
- 日本軍と米軍の戦略・組織特性比較 ⇒ 戦略と組織のそれぞれの特性の間に相互関係が存在する。
- 目的の不明確さは短期決戦、また戦略が帰納的な方法とも関係性を持っている。
- このような人事だから、論理的でないのか、論理的でないから動機やプロセスに評価の目がいくのか。
分類 項目 日本軍 米軍 戦略 目的 不明確 明確 戦略志向 短期決戦 長期決戦 戦略策定 帰納的
(インクリメンタル)演繹的
(グランド・デザイン)戦略オプション 狭い
統合戦略の欠如広い 技術体系 一点豪華主義 標準化 組織 構造 集団主義
(人的ネットワーク
・プロセス)構造主義
(プロセス)統合 属人的統合
(人間関係)システムによる統合
(タスクフォース)学習 シングルループ ダブルループ 評価 動機・プロセス 結果
三章 失敗の教訓
- 軍事組織の環境適用
- 組織は環境不適合があっても、それらを環境適合的に変革できる力をもつ『自己革新組織』であること。
- 日本軍の環境適用
- 戦略・戦術
- 陸軍は銃剣突撃の白兵戦思想という「ものの見方」であった。
- 物的資源より人的資源の獲得が経済的におり容易であった資源的制約、人命尊重の相対的に希薄であった風土なかで、火力重視の米軍の合理主義に対し、白兵重視のパラダイムを精神主義にまで高めていった。
- 海軍は過去の海戦完全勝利により、艦隊決戦主義という「ものの見方」であった。
- 陸海軍のパラダイム(ものの見方)は戦略の構成要素を根底から規定していった。
- 資源
- 戦略にあわせて資源の貯蓄を推進。
- 資源は戦略発想を規定するものであるが、戦略もそれが上手くいけば資源貯蓄と発展のパータンを決める。
- 陸軍は白兵銃剣主義により、近代兵器・装備の発展がなされず、備蓄が容易だった白兵装備が進んだ。
- 海軍は艦隊決戦主義のもと、大艦巨砲主義の戦略を進め、「攻撃は最良の防禦」とう考えにつながった。
- パラダイムにあわない考え、防禦などのハードウェアならびにソフトウェアの蓄積を怠るに至った。
- 組織特性 ①組織構造
- ダイナミックな環境に適応する組織は組織内の機能を『分化』させると同時に『統合』しなければならない。
- 『分化』と『統合』という相反する関係を同時に極大化している組織が環境適用に優れている。
- 米軍は統合参謀本部という統合部門により一元的な統合を確保した。
- 水陸両用作戦では、陸・海・空を有機的に統合した独自のタスクフォース組織を作り上げた。
- 組織特性 ②管理システム
- 年功序列の人事昇進システムのなか、能力主義による抜擢人事はなかった。
- 人事昇給システムの価値体系を強化こそすれ、それを破壊することは難しかった。
- 教育システムもオリジナリティを奨励するよりは、暗記と記憶力を強調した教育だった。
- その為、要領よく整理・記憶するかがキャリア形成のポイントだった。
- そのような教育で躾けられた行動様式は、戦闘が平時の訓練のように決まったシナリオで展開していく場合には良いが、不測の事態(コンティンジェンシー)がおこるような不確実性の高い状況下で独自の判断を迫られるようになると重bンに機能しなくなる。
- 組織特性 ③組織行動
- 日本軍のなかで組織成員が悲母見たり接したりできたリーダーの多くは白兵戦と艦隊決戦という戦略原型を具体化した人であった。
- 戦略原型が末端までに浸透するためには組織成員が意味や行動を媒介にして、ものの見方・行動の方を内面化していくことが必要。
- このようなパラダイムの浸透には組織リーダーの言動による影響力が大きい。
- リーダーは、意識的・無意識的に日常から部下へ説いている。
- 年功序列型の組織は人的に繋がりやすく、リーダーの成功体験が継続的に組織上部構造に蓄積させる為、価値の伝承は努力しなくても日常化される。
- 年功序列からのリーダーシップの積み上げで、戦略・戦術のパラダイムは行動規範、組織文化までに高められる。
- 組織の文化はささいな日常の人々の相互作用の積み重ねによって形成される。
- 組織学習
- 組織は学習しながら進化する。組織はその成果を通じて既存の知識の強化、修正あるいは棄却と新知識の獲得をおこなっていく。
- 組織学習とは、組織の行為と結果との間の因果関係についての知識を強化あるいは変化させる組織の行為とプロセスである。
- 組織学習は組織の一人一人によって行われる学習が互いに共有され、評価され、統合されるプロセスを経て初めて起こる。
- 組織学習には、行為と成果の間にギャップがあった場合には既知の知識を疑い、新たな知識を獲得する側面がある。
- 組織として既存の知識を捨てる学習棄却つまり自己否定的学習が必要。
- 日本軍は白兵銃剣主義による連勝で既存知識を強化しすぎ、学習棄却に失敗した。
- 組織文化
- 新たな環境変化に直面したとっきに最も困難な課題は、これまでに蓄積してきた組織文化をいかにして変革するということである。
- 組織文化は組織の戦略とその行動を根底から規定している。
- 組織文化は①価値、②英雄、③リーダーシップ、④組織・管理システム、⑤儀式などの一貫性をもった相互作用のなかから形成される。
- 日本軍は白兵銃剣主義、艦隊決戦主義で表現される行動様式に適応しすぎて特殊化した組織であった。
- 自己革新組織の原則と日本軍の失敗
- 組織は主体的に戦略・組織を環境の変化に適合するように変化させなければならない。
- 不均衡の創造
- 適応力がある組織は、環境を利用してたえず組織内に変異、緊張、危機感を発生させている。
- 組織が進化するためには、たえず不均衡状態にしておかなければならない。
- 不均衡は組織が環境との間の情報やエネルギーの交換プロセスのパイプをつなげておく(開放体制)必要条件である。
- 完全な均衡状態は適応の最終状態であり、組織の死を意味する。
- 環境が変化した場合には、均衡関係を崩して、組織的な不均衡状態を作り出す必要がある。
- 均衡状態が崩れた組織は、組織の構成要素間の相互作用が活発になり、組織のなかに多様性が生まれる。多様性が創造されれば、時間・空間的に均衡状態に対するチェックや疑問や破壊が自然発生的に起こり、進化のダイナックスが始まる。
- しかしながら、戦時でなく平時の日本軍は安定的な組織になっていた。
- 平時に組織内に緊張感を創造し、多様性を保持して高度に不確実な戦時に備えるかが課題であった。
- 組織に緊張感を創造するには、客観的環境を主観的に再構成あるいは演出するリーダーの洞察力、異質な情報、知識の交流、ヒトの抜擢などによる権力構造のたえざる均衡破壊などがカギとなる。
- 日本軍組織は、過去の勝利から時間が経過し、組織も硬直化した。
- 危機感を洞察するリーダーもいなければ、過去の勝利を反覆するばかりで、どうしようもない驕りが組織内に満ち満ちていた。
- 硬直した組織は変化に適応しない為、普段は問題が表にでないが、有事の際に変化に適応できておらず、組織が持っている組織の欠陥が表に現れる。
- 自律性の確保
- 組織単位に自律性をもつ米軍は環境の変化に適応し、他に伝達、全体として環境に敏感なシステムをもつ。適応の仕方に井実正、独自性を確保し創造的な解を生み出す可能性を持つ。タイトな組織に比較して、組織単位間の影響度が軽く自由度が高いので、予期しない環境変化に対する脆弱性が小さい。
- 日本軍の第一線の高級指揮官には人事権が無かったが、米軍は大緯線指揮官に任免する人事権が与えられていた。
- 日本軍は結果よりもプロセスや動機を評価し為、作戦結果の客観的評価と事実や経験の蓄積を制約し、官僚制組織の下剋上を許した。
- 日本の現地軍は責任多く権限なしといわれた。
- 曖昧な命令、精神主義が出れば出るほど、現地軍の責任と義務は際限なく拡大追及され、結果的にはその自律性を喪失した。
- 権限はなく押し付けられる命令、責任に身動きが取れなくなる様は今の社会にも見られる。
- 創造的破壊による突出
- 進化は創造的破壊を伴う「自己超越」現象でもある。
- システム自体の限界を超えたところに到達しようと自己否定を行う。
- 進化は創造的なものであった単なる適応的なものではない。
- 自己革新組織は、絶え間なく現状の創造的破壊を行い、本質的にシステムを物理的・精神的境界を越えたところに到達させる原理をうちに含んでいる。
- 創造的破壊は、ヒトと技術を通じて最も徹底的に実現される。
- ヒトと技術が重要であるのは、戦略発想の鍵になっているから。
- 日本軍の自己超越は合理性を超えた精神主義に求められた。はじめからできないことが分かっていたものであって、創造的破壊に繋がらなかった。
- 日本軍は物的資源、人的資源、すべてに余裕のない組織であった。
- 余裕のなさが重大な局面で、積極的行動を妨げたかもしれない。
- 異端・偶然との共存
- イノベーションは異質なヒト、情報、偶然を取り込むところに始まる。
- 官僚制は、あらゆる異端・偶然の要素を徹底的に排除した組織構造である。
- ボトムアップによるイノベーションは困難であった。
- 日本軍は偶然の発見を組織内に取り込むシステムや慣行を持っていたとはいえない。偶然に対処する発想が希薄であった。
- 知識の淘汰と蓄積
- 組織は進化するためには新しい情報を知識に組織化しなければならない。
- 進化する組織は学習する組織である。
- 組織は相互作用を通じて、生存に必要な知識を選択淘汰し蓄積する。
- 戦略的思考はオープンな議論や体験の中で蓄積される。
- 日本軍は日露戦争の勝利について真の情報が開示されず、表面的な勝利が統帥綱領に集約され、戦略・戦術は「暗記」の世界となった。戦略がなければ、情報軽視は必然の推移である。
- 統合的価値の共有
- 自己革新組織は、構成要素に方向性を与え、協同を確保するためにビジョンを持たなければならない。
- 自律性を高め、構成単位がバラバラになることなく総合力を発揮するために進む方向性を全員に理解させなければならない。
- 価値が共有され信頼関係が確立されている場合は、見解の差異、コンフリクトがあっても、それらを肯定的に受容し学習や自己否定を通じてより高いレベルでの統合が可能となる。
- 日本軍の失敗の本質とその連続性
- 自己革新組織とは、環境に対して自らの目標と構造を主体的に変えることのできる組織。
- 日本軍はダイナミズムをもたらす3つが欠けていた。
- エリートの柔軟な思考を確保できる人事教育システム
- すぐれたものが思い切ったことのできる分権的システム
- 強力な統合システム
- 日本軍は過去の戦略原型には適応したが、環境が構造的に変化したときに、自らの戦略と組織を主体的に変革するための自己否定的学習ができなかった。
- 欠陥の本質は日本軍の組織原理にある。日本軍は官僚制と集団主義が入り混じった組織を創り上げた。現場の自由裁量と微調整主義を許容する長所を、逆に階層構造を利用して圧殺した。
- 現代の行政官庁については、タテ割りの独立した省庁が割拠し日本軍同様に統合機能を欠いている。
- 日本企業の戦略と組織の強み
- 戦略について
- 論理的・演繹的な米国企業の戦略策定に対し、日本企業は帰納的戦略策定を得意とするオペレーション志向である。
- 長所は継続的な変化への適応能力をもつ
- 環境の変化が突発的な大変動ではなく、継続的に発生している状況では強みを発揮する。
- 大きなブレイク・スルーを生み出すよりも1つのアイデアを洗練するに適していた。
- 組織について
- 価値・情報の共有をもとに集団内の成員や集団間の頻繁な相互作用を通じて組織的統合と環境対応を行う。
- 長所としては
- 下位の組織単位の自律的な環境適応が可能
- 定型化されていない、曖昧な情報をうまく伝達・処理できる
- 組織末端の学習を促進させ、知識や経験の蓄積を促進し、情報感度を高める
- 価値観によって、人々を内発的に動機づけ大きな心理的エネルギーを引き出す
- 戦略については(マイナス)
- 明確な戦略概念に乏しい
- 急激な構造的変化への適応が難しい
- 大きなブレイク・スルーを生み出すことが難しい
- 組織については(マイナス)
- 集団間の統合の負荷が大きい
- 意思決定に長い時間を要する
- 集団志向による異端の排除が起こる
- 現代は高度情報化や業種破壊など日本が得意とする体験的学習だけからでは予測のつかない環境の構造的変化が起こっている。
- 成長期にうまく適応してきた戦略と組織の変革が求められている。
- 異質性や異端の排除と結びついた発想や行動の均質性という日本企業の持つ特質が逆機能化する可能性がある。
- 米国に比較すると日本のトップマネジメントの年齢は異常に高い。
- 過去の成功体験が上部構造に固定化し、学習棄却ができにくい組織になりつつあるのではないか。
- 日本的企業組織も新たな環境変化に適応する為、自己革新能力を創造できるかが問われている。
- あとがき
- 組織が継続的に環境に適応していくためには、主体的にその戦略・組織を確信していかなければばらない。
- 自己革新組織の本質は、自己と世界に関する新たな認識枠組みを作り出す事、すなわち概念の創造にある。
- 概念創造の能力が乏しかった為、パターン化された模範解答の繰り返しに終始した。それゆえ、戦略策定を誤った場合もその誤りを的確に認識できずにフィードバックと反省による知の積み上げができなかった。
- いまや日本は先行目標がなくなり、自らの手で秩序を形成しゲームを創り上げないといけない。
失敗の本質 漢字の読み方(読めないでしょ…)
- 破催 はさい
- 示達 じたつ
- 係争 けいそう
- 下達 かたつ
- 閑院宮載仁親王 かんいんのみや ことひとしんのう
- 惨憺 さんたん
- 叢書 そうしょ
- 屋上屋 おくじょうおく
- 張鼓峰 ちょうこほう
- 国境画定 こっきょうかくてい
- 邀撃 ヨウゲキ
- 漸減邀撃作戦 ゼンゲンヨウゲキサクセン
- 来攻 ライコウ
- 沮喪 ソソウ
- 躊躇 ちゅうちょ
- 遊出 ゆうしゅつ
- 劈頭 へきとう
- 哨戒索敵 しょうかいさくてき
- 帰趨 きすう
- 伎倆 ぎりょう(技量)
- 控置 こうち
- 前端 ぜんたん
- 伎倆拙劣 ぎりょうせつれつ
- 果断 かだん
- 逡巡 しゅんじゅん
- 将旗 しょうき
- 座乗 ざじょう
- 薄暮 はくぼ
- 下令 げれい
- 曳航 えいこう
- 大略 たいりゃく
- 逓減 ていげん
- 欺瞞 ぎまん
- 驕慢 きょうまん
- 防禦 ぼうぎょ
- 兵站 へいたん
- 戦勢 せんせい
- 人夫 にんぷ
- 夢想 むそう
- 数次 すうじ
- 尖兵 せんぺい
- 斯く かく
- 委した まかした
- 恢復 かいふく
- 擲弾筒 てきだんとう
- 渡渉 としょう
- 砂州 さす
- 鵯越 ひよどりごえ
- 払暁 ふつぎょう
- 小丘 しょうきゅう
- 挺進 ていしん
- 遮二無二 しゃにむに
- 龍驤 りゅうじょう
- 匍匐前進 ほふくぜんしん
- 惘然 ぼうぜん
- 横臥 おうが
- 蒙る こうむる
- 已む無く やむなく
- 後図 こうと
- 舟艇 しゅうてい
- 錯雑 さくざつ
- 隔絶 かくぜつ
- 手裡 しゅり
- 牢固 ろうこ
- 連繋 れんけい
- 相俟って あいまって
- 峻険 しゅんけん
- 榛名 はるな
- 泊地 はくち
- 投錨 とうびょう
- 擱坐揚陸 かくざようりく
- 愈々 いよいよ
- 克く よく
- 斯くして かくして
- 遺漏 いろう
- 金城鉄壁 きんじょうてっぺき
- 側背 そくはい
- 罷免 ひめん
- 敵火 てきか
- 勇戦奮闘 ゆうせんふんとう
- 堅塁 けんるい
- 交歓 こうかん
- 黎明 れいめい
- 路傍 ろぼう
- 飯盒 はんごう
- 斃れる たおれる
- 一里塚 いちりづか
- 方途 ほうと
- 間歇 かんけつ
- 潰滅 かいめつ
- 墨守 ぼくしゅ
- 杜撰 ずさん
- 隷下 れいか
- 峻険 しゅんけん
- 徴発 ちょうはつ
- 悪疫瘴癘 あくえきしょうれい
- 攪乱 かくらん
- 掃蕩作戦 そうとうさくせん
- 盧溝橋事件 ろこうきょうじけん
- 所信 しょしん
- 披瀝 ひれき
- 譴責 けんせき
- 兵棋演習 へいぎえんしゅう
- 万難 ばんなん
- 消極退嬰 しょうきょくたいえい
- 懇請 こんせい
- 沮喪 そそう
- 糧秣 りょうまつ
- 携行 けいこう
- 督戦 とくせん
- 捷一号作戦 しょういちごうさくせん
- 乾坤一擲 けんこんいってき
- 放擲 ほうてき
- 麾下 きか
- 潰走 かいそう
- 掃蕩 そうとう
- 機宜 きぎ
- 巧緻 こうち
- 艦載機 かんさいき
- 天祐 てんゆう
- 潰走 かいそう
- 展張 てんちょう
- 爾後 じご
- 偽電 ぎでん
- 述懐 じゅっかい
- 直截 ちょくさい
- 広汎 こうはん
- 大綱 たいこう
- 本旨 ほんし
- 来寇 らいこう
- 緊要 きんよう
- 徴する ちょうする
- 恰も あたかも
- 大海嘯 だいかいしょう
- 端役 はやく
- 黎明 れいめい
- 蝟集 いしゅう
- 鎧袖一触 がいしゅういっしょく
- 潰滅 かいめつ
- 忽ち たちまち
- 茲 ここ、これ、この
- 時日 じじつ
- 端緒 たんしょ
- 彼我 ひが
- 滲透 しんとう
- 湊川 みなとがわ
- 狭隘 きょうあい
- 制扼 せいやく
- 成敗利鈍 せいはいりどん
- 執念 しゅうねん
- 草創 そうそう
- 疎隔 そかく
- 霧消 むしょう
- 近迫 きんはく
- 橋頭堡 きょうとうほ
- 消尽 しょうじん
- 失陥 しっかん
- 抗堪 こうたん
- 吻合 ふんごう
- 顧慮 こりょ
- 傾注 けいちゅう
- 而して しこうして
- 赫々 かっかく
- 嘆じる たんじる
- 巧緻 こうち
- 已む やむ
- 戦捷 せんしょう
- 偏重 へんちょう
- 汲々 きゅうきゅう
- 泰然 たいぜん
- 馳駆 ちく
- 八紘一宇 はっこういちう
- 反駁 はんばく
- 裡 うら
- 頑健 がんけん
- 敵討ち かたきうち
- 聖旨 せいし
- 天佑神助 てんゆうしんじょ
- 空文虚字 くうぶんきょじ
- 言行一致 げんこういっち
- 伸暢 しんちょう
- 捨象 しゃしょう
- 下士官 かしかん
- 形而上 けいじじょう
コメント
コメントを投稿